出遅れながらもついていき、私はちらりと彼の左手を見ながらスピードを上げた。
相良くんはハッと笑って、挑むようについてくる。
 
音を楽しんでいるというか、音自体が魂をもって楽しんでいる。
そんな気がする。

追いかけっこのようなメロディで戯れて、跳ねて、踊る。
気付けば、私も笑っていた。

楽しい。

そんな単純で根幹の感情が、シンプルに鍵盤をはじいて、ハンマーが弦を打ち、音の振動となって伝わる。
 
私たちは、話すよりもこうしてピアノを弾いていたほうがコミュニケーションが取れるんじゃないかと、そんなことすら思ってしまう。