調子が万全だとは、とても言えない。
けれど、昨日のピアノ教室では、ここ最近では一番落ち着いた演奏ができたような気がしたし、益川先生も、とにかく楽譜に忠実に、そしてミスを最小限にすれば、私の力なら入賞できるはずだ、と言った。

しばらくすると、トップバッターの人の演奏が始まる。
私はそれをあえて真剣に聞かないように、まるでBGMとして聞くように努め、緊張をなるべく遠ざけた。
 
大丈夫、大丈夫。あんなに毎日のようにピアノに触れて練習してきたんだから。
そう、旧音楽室を借りてまで……。
 
ふと、頭によみがえったのは、相良くんとふたりで弾いたハノンだった。

あの、たどたどしくて、遅すぎるテンポの音楽。
右手と左手が同じリズムだから、合わせながらも追いかけ合うように、楽しく弾いた。
 
なんで、今……。
 
私はそれを頭の中から払うように頭を振り、ショパンのエチュードの指を膝の上で再現する。