来栖先輩は、大きな目に涙を溜めて、何度もありがとうと元気でねを繰り返してくれた。

来栖先輩が、実は雛さんと私が少し似ていることを最後に教えてくれて、それでとても可愛がっていたのだと暴露してくれたことは、素直に嬉しかった。


ありがとう、来栖先輩。

星岡君と付き合わなくても、彼にとって大切な人に変わりはないはずだから、どうかこれからも仲良くいてください。

そう願って、私は来栖先輩の華奢な手を強く握りしめて、お礼を伝えたのだ。




でも私はあの日ひとつの失敗をした。

それは、取りに行くはずだった、「あなたの幸せ」というテーマで描いた作品を、美術室に置きっぱなしにしてしまったから。

それで私は今、休日に学校へと向かっているのだ。

今日は祝日と被った土曜日なので、ほとんどの部活はお休みで、校内はしんと静まり返っている。

私は警備員さんに事情を話してから校舎に入って、靴を下駄箱にしまった。

誰もいない校舎はまるで、地球上にまるで独りぼっちになった様に静かで暗い。

もう上履きも持ち帰ってしまったので、スリッパを履いて中に入った。