いざ口にするとなると、勇気がいる。でも、一之瀬君にはちゃんと伝えなきゃならない、自分の口で。


「私、東京に戻ることになったんだ」

「え、やだ」

間をおかずに、一之瀬君は速攻で否定したので、思わず緊張がゆるんでしまい笑ってしまった。

でも、彼は笑い事じゃないよと言って、私の背中を叩く。

「無理だよ俺、もっちーいなくなったら寂しくて死んじゃうもん」

「私も本当に寂しいよ、一之瀬君たちと会えなくなるの」

「その、“たち”っていうの、余計だな」

「はは、ごめんって」

「だから、全然笑い事じゃないんだって」

そう言って、彼は私の腕をグイッと引っ張り、私を無理やり一之瀬君の方へ向かせた。

彼は本当に真剣な表情をしたので、私もちゃんと本題に入ろうと思った。


「……今までちゃんと返事してなくてごめん。私、一之瀬君とは付き合えません、星岡君が好きだから」

真っ直ぐに彼の目を見て、ハッキリそう伝えると、彼はゆっくりと視線を下に落とした。

ダブルパンチすごいなって、ぼそっと呟いたので、私は罪悪感で胸が軋んだけれど、逃げちゃいけないと首を横に振った。

だってここで中途半端に優しくしたら、一之瀬君が辛いんだってこと、私知ってる。


「秋祭り、すごく楽しかった。本当にありがとう。体育祭の時も、先輩から助けてくれてありがとう」

「……やめろよ、卒業式の別れの言葉みたいじゃんか」

「いや、でもお礼言っとかなきゃって思って……」

「そんなこと言われても、俺、もっちーのこと思い出になんかしないよ」


拗ねたような口調で、でも一之瀬君はハッキリとそう言った。

私が困ったように笑うと、頬を思い切りつねられた。


「痛い痛い、やめへ」

「俺は、依ちゃんみたいにいい子にはなれないから、好きな人の恋の応援なんてしないよ。翔太との仲も取り持ったりしない」

「はは、いちのへ君らしい……」

「……俺、東京の大学受けるつもりだったし、諦めてやんない。もっちーのこと」


珍しく子供っぽいことを言うので、私は思わず少し笑ってしまった。

一之瀬君はそんな私に不服そうにしながら、ゆっくりと頬をつまむ手を放して、それから私の頭を撫でる。

切なそうに瞳を細めて、一之瀬君が、か細い声でつぶやいた。


「俺のこと、好きになればよかったのに……」