幼稚な考えでお父さんに酷いことを言ってしまった自分が嫌になる。

その日私は、これ以上ないくらいの自己嫌悪で、一晩中苦しんだ。






美術室の窓からは、サッカーグラウンドがちょうど見える。

一之瀬君らしき人が、倉庫の近くで女の子に呼び出されているのをタイミングよく発見してしまい動揺した。


「あ、もしかして告白現場かな」

ショートボブの都築ちゃんが、私と同じように筆を持ちながらグラウンドを眺めて、冷やかすように呟く。

「あれもしかして一之瀬君? 変わり者だってこと、まだ後輩には知られてないんかね」

都築ちゃんの言葉に苦笑して、私はそっとキャンバスに視線を戻した。

一之瀬君の気持ちにもちゃんと返事をしていないし、星岡君にもあんな態度取っちゃったし、お父さんにも酷いこと言っちゃったし、本当に自分が嫌になる。

モヤモヤした気持ちがそのまま絵に表れてしまい、気づくとどす黒い色のリンゴが目の前に描かれていた。


「あー、だめだっ、なんだこれ全然よくない」

「望月ちゃんにしては珍しいタッチだね」

「やめよ、気分転換するっ」


私は頭をふるふると振ってから、りんごのキャンバスを端に立てかけて、別のキャンバスを持ってきた。

それは、二年生の最後の課題、『あなたの幸せ』という共通テーマに沿った絵だった。

都築ちゃんはその絵を見て、ぼそっと呟く。


「やっぱその絵、すごいわ。望月ちゃんの作品で、一番好きだな」


都築ちゃんの言葉を、私は素直に嬉しいと思った。

パレットで絵の具を溶いて、キャンバスに筆をピタッと乗せる。

さっき描いていたりんごとは全く違う、光が差し込むような柔らかい色を出していく。

この絵を描き終えた時、その時はきっと、どうか星岡君への想いも完全に思い出となっていてくれればいい。

そう願いながら、私は何層にも色を重ねた。


十八時を過ぎると、生徒たちは次々と帰っていき、残ったのはついに私だけとなった。

顧問の原先生に早く帰れよと言われたけれど、昨日のこともあって、家には帰りたくない。

お父さんにもお母さんにも合わせる顔がないよ。

窓の外はもう真っ暗で、サッカー部員の掛け声ももう聞こえない。

星岡君たちももう帰っただろうか。


「寒いなあ……」