望月を泣かせてしまった。

その事実だけが残って、俺はその場にただただ立ち尽くしていた。

どうしてあんなことを聞いてしまったのか、どうして望月が泣いたのか、なにひとつ整理がついていない。


「行くなよって、なんであんなこと……」


俺は、あの瞬間、望月の腕を引っ張って引き留めた。一之瀬が好きなのかと聞いた。

……理由は分からないけれど、なぜか一之瀬の元へ向かう後姿を見た途端、嫉妬に近い感情が芽生えて、気づいたら体が先に動いていた。

嫉妬? どうして俺が望月に嫉妬なんて……。

自分の気持ちが、さっぱり分からない。






翠と二人で話し合ったのは、夏休み終了間際のことだった。

望月に背中を押されて、自分の長年の想いを伝える決心がついた。

この一年間、そんなこと一度も考えたことがなかったのに、たったひとりのクラスメイトの言葉でこんなに心が動くなんて。


「翔太、ごめんね、待った?」

「いや、全然」


長い髪を揺らして、翠は待ち合わせ場所の公園にやってきた。

時刻は真夏の暑さも少しずつ落ち着いてきた夕方で、よくこの公園で翠と雛と俺の三人で遊んでいた。

思い出の場所で、俺たちは近くのベンチに座って自然と思い出話を始めたんだ。


「雛がよく、ブランコの変な乗り方をあみ出してはケガして、叱られてたよな」

「そうそう、なぜか怒られるのは私と翔太だったよね。なんで止めなかったのって」

「理不尽だよなあ、雛は頑固だから止めても止めないの知ってるくせに」


小さい子が遊具で遊ぶ姿を眺めながら、幼いころの雛を重ねると、雛の鳴き声や笑い声まで鮮明に浮かんできた。

なんだか今でも、ふっと姿を現してくれそうで、幻想でもいいから雛の姿を探してしまう。

一年なんて、大した時間じゃない。

俺たちは、あの日から時間が止まったままだ。


「そういえば、望月ちゃんてさ、少しうちの雛に似てない? 素直で一生懸命だけど、実は傷つきやすくてなんかほっとけないところとか」

「はは、確かに。雛はピーピーうるさいけど、根が真面目でいつも何かに一生懸命だったよな。だからなんかほっとけなくて……」

「だからかな、なんか望月ちゃん、可愛くて」


翠は、遠くを見つめながら切なそうに目を細める。