見知らぬ男子生徒が、私を頭ごと抱きかかえて、身を呈して庇ってくれたのだ。
むき出しになった網入りガラスの針金を見つめながら、彼は『危ねぇ……』と微かに呟いた。
私は初めて触れる、女の子よりずっと固い体と、力強い腕に緊張して息が詰まってしまった。
なにも言えない私から離れて、彼は窓を開け、金網に食い込んでいるボールを取ると、軽く振りかぶってグラウンドに向かってボールを投げた。
「危ねぇーだろ、バーカ」
「星岡ー! 悪ぃ本当ごめんー、ボールサンキュー!」
「破片掃除しにこい、今すぐ。あと女子に謝れ」
「名前なんて子!? ケガなかったー?」
彼は、まだ腰を抜かしてしまっている私に目を向けて、名前なに? と聞いてきた。
この人、なんか見たことあると思ったら、昨日充電器を貸してくれた人だ。
星岡君って、この人だったんだ……。
「も、望月依です……、でも、あの、お陰で大丈夫だったので全然……」
「望月、望月依って子ー! はよ来い!」
私の言葉を無視して、彼は間髪入れずにグラウンドに向かって叫んだ。
男の子に自分の名前を叫んでもらうなんてことはおろか、下の名前だって呼んでもらったことはない。
茫然としている私に、彼は最後に『ちゃんと謝ってもらいなよ』と、ひと言残してから、その場を去っていった。
ボールを投げる瞬間、黒髪が光に反射して煌めいて、とても綺麗だった。
「星岡君……」
そうか、あの人が。
彼の名前を言葉にして、私は初めて異性に対してドキドキしてしまったことに、気付いた。