ビニール傘が少し上向きになって、バチッと望月と目が合ったその瞬間、なぜか俺の目から涙がぽろっと零れ落ちた。

抱え込んでいた感情全てが、望月と会った瞬間緊張感が解けて、ほろほろと剥がれ落ちてしまった。


「あれ……、ごめん、俺なんでこんな……」

望月は、俺の涙を見ても、何も表情を変えずに黙って俺を見つめていた。

「星岡君、さっき寂しそうな目、してたから……」

「え……」

「ごめん、私、来栖先輩から聞いちゃったの。妹さんのこと……」

俺の涙に、望月の細い指がそっと触れた。

雨粒は容赦なく勢いを増して、草の生えたアスファルトに、俺の傘に、彼女の肩に、落ちていく。


望月が、雛のことを知っている……。

その事実に俺は驚いたが、望月はとても苦しそうな顔で、ごめんなさいと謝った。


「勝手に、ごめんなさい……踏み込んじゃいけないって、分かってるのに……」

俺は静かに首を横に振って、今にも途切れそうな望月の言葉を待った。


「でも、さっきの星岡君の表情を見て、どうしても放っておけなかった……」

「はは、俺そんなに酷い顔してたか……」

「……泣いてるときに、笑わなくていいよ」

……望月の指が、ゆっくりと俺の涙をぬぐって、ゆっくりと離れていく。

彼女の言葉が、冷たくなった心の中に、なぜかするすると染み込んでいく。

折角涙をぬぐってもらったのに、またすぐに瞳がうるんでいくのを感じた。

そしたらもう、誰にも言えなかった言葉が止まらなくなってしまった。


「俺さ……、雛の気持ちわかってたのに、ずっと逃げ続けて、本当に最低なやつなんだ……」

情けない。こんなこと聞かされたら、望月だってきっと困ってる。

でももう、誰かに聞いてもらわなきゃ限界だった。


だって、誰も俺を責めたりしないから。


「いっそ誰かに罵られれば、責めれもらえば、どんなにいいか……っ」

葬式では、会う人会う人に言われた。

『雛は翔太君のこと、大好きだったから』、と。

そう言って、目を潤ませる人たちを目の当たりにして、俺は震えが止まらなかった。


まるで、罪悪感を煽る呪いの言葉のように感じてしまった。


「今も頭の中で響くんだ、思い出すんだ……雛が俺の名前を呼んで、俺がそんな彼女の腕を振り払う感覚が……ずっと、ずっとこの一年間消えなくて……」

「星岡君っ」