「また引っ越すの……?」
まだ中学生だった頃の記憶だ。
幼かった私のその問いかけに、両親は目を伏せてごめんねと呟く。
こうして友人との別れを繰り返して、いつしか別れに慣れてしまった。
深入りすればするほど離れがたくなる。悲しくなるから、友達は作りすぎないようにしよう。
そんな風に思って過ごしてきた。そうやって、人との距離を保ってきた。
だから、誰かを好きになるなんて、そんな意味のないことはしたくないと思っていた。
大学生になったら、一人暮らしできるようになったら、ゆっくり恋をしよう。それからでも全然遅くない。
大丈夫、全然寂しくなんかない。
そう言い聞かせて生きてきたのに、好きな人がいる人を好きになってしまった。
恋が、こんなに苦しくて仕方ないなんて、知らなかった。
○
「もっちー、もう終わったの?」
駅へと向かう途中、後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはゆるふわパーマの一之瀬君がいた。
彼は小走りで私の元へ寄ってきて、私の横に並んだ。
「一之瀬君も、今日は早いね」
「今日はこの後予備校なんだ。毎週月水は早く帰らせてもらってる」
「そうなんだっ、知らなかった。一之瀬君何気に頭いいもんね……」
「ま、翔太には及ばないけどね」
彼がいじけたように呟くので、私はバシッと背中を叩いて乱暴に励ました。
一之瀬君は、初めて話した時から比べると、ずっと優しくなった。
見下すように笑わなくなったし、あまり屁理屈も言わなくなった、気がする。
それは少しずつ私に気を許してくれている証拠なのか……そんな風に思いながら、私は彼を見上げた。
「……体育祭の時さ、助けてくれてありがとうね。あの時ちゃんとお礼言えなかったから……」
「もっちーが今にも髪掴んで殴り掛かりそうだったからね」
「いやさすがにそこまではしないよっ」
「はは、どうだか」
一之瀬君が得意の意地悪な顔で笑ったので、私はまた背中をバシッと叩いた。
くだらない話をしていたら、ほんの少しだけ気持ちが解れてきた。
来栖先輩の涙を見たあの日から一週間が経ち、私はずっと心だけがどこかを彷徨っているみたいだった。
「最近もっちー元気ないじゃん」
「一之瀬君、それ言えばいいと思ってるでしょ」
「あれ、ついにばれた?」
「残念ながら、元気です。少し風邪気味だけど」
「ほんとだ、そういえば顔赤いね」