「おい一之瀬、今日も星岡は休みかー?」
先生の声に、一之瀬君はぴくっと眉を動かした。
数秒間を置いて、スマホを見ながら気だるそうに、『午後からくると思いまーす』と返していた。
意外と栄えている。
こんなことを言ったら三木ちゃんにも怒られるだろうけれど、もっとこう、交通網も不便で近くにコンビニもまともにない町をイメージしていた。
駅の近くにはおしゃれなカフェもあるし、バスに乗ればショッピングモールもあるし、飲食店も充実していた。
なんだ、鳶のなく声が木霊して聞こえそうな町を想像していたけれど、案外前に住んでいたところと変わらないや。明るい町を見ながら、私はそんなことを思ってほっとしていた。
一日目は三木ちゃんに色々と駅周辺を案内してもらって、三木ちゃんのお友達とも仲良くなれた。
依、と気さくに呼んで、恋話にもいれてくれる皆の大らかな人柄に救われた。
『依ちゃんは誰かと付き合ったことないのー?』
ただ、あの質問にだけは上手く答えられなくて申し訳ないことをしたと思う。
彼氏どころか、今まで好きな人もできたことがないなんて、とてもじゃないけど言えない。
言い訳かもしれないけれど、どうせ転校するんだし、という気持ちが、好きな人を作っても仕方ない、という考えに至らせていた。
皆、好きな人ができるととても幸せそうで、キラキラしていて、可愛くて、いつかそんな体験してみたいなって、思ったことは何度もある。
何度もあるけど、友達でも彼氏でも、その人のことを好きになればなるほど、別れがたくなるのは想像ついたから。