目の前を歩く集団の中に、栗色の髪の毛の女子を見つけたので、俺は小走りで彼女に追いついた。

「望月、おはよう」

「わっ、びっくりした!」

望月は音楽を聴いていたのか、俺の気配を一切感じていなかったようで、本気でびっくりしていた。

心臓の位置に手を当てながら、望月はおはようと返してくれた。

こんなに日差しの強い中、駅から徒歩十分もの距離を移動しているというのに、望月は変わらず白い。

「望月って、普段どんな曲聴いてるの?」

「んー、結構バラバラだけど、最近はバラード系が多いかな。スマホのCMソングのやつとかお気に入り」

「どんな曲だっけ?」

「聴く? 今外す……え」

俺はいつも一之瀬としょうもない動画を観る時のように、反射的に望月が手に持っていたイヤホンに耳を寄せてしまった。

望月のシャンプーの匂いがわかるほどの至近距離になってから、今自分がなにをしてしまったのかを理解して、すぐに離れた。

「ごめんっ、つい癖で……いや、癖でっていうと誤解あるけどとにかくごめん」

「う、ううん。大丈夫」

望月は戸惑った様子で首を横に振ったけれど、一之瀬にこんなところを見られたらただじゃおかないだろうな。

そういえば、一之瀬はまだ望月に思いを伝える気はないのだろうか……。

「つかぬこと聞くけど、望月って彼氏いんの?」

「えっ、いたことないよ」

俺の質問に、さっきより勢いよく首を横に振る望月。

よかったな一之瀬、どうやら彼氏はいないらしいぞ……。

余計なお世話かもしれないと分かりつつも、好きな人なんて滅多に作らない一之瀬のために、親友として何かしてやりたくなった。


「一之瀬って、望月的にどうなの?」

「え……一之瀬君?」

「いや、最近仲いいし、どうなのかなって単純にー……」


そこまで言いかけて、俺は口を閉じた。

望月が、一瞬泣き出しそうな顔をしたから。

でも、それは本当に一瞬で、彼女はすぐに俺を見上げてパッと明るい笑顔を見せた。


「私も、一之瀬君面白くて好きだよ」

「……そっか、あいつも望月のことすごい気に入ってるよ。それ聞いたらあいつも喜……」

「星岡君も、好きだよ」


それはあまりに唐突だったので、“男として”ではなく、“友達として”好きと言ってくれたのだと理解するのに時間がかかった。