「星岡、星岡翔太、見なかった!?」

見知らぬ女性が、血相を変えて私に話しかけてきたあの春の日のこと。

一か月遅れて入学した私は、その日初めて学校に来たばかりで、先生と入学の手続きについて話した直後だった。

まだクラスメイトの顔も名前も知らなくて、その女の先輩の質問に薄い反応しか返せなかった。

人もまだらな放課後、私のクラスには確かに星岡君という生徒がいるようだけど、教室にはもう私しか残っていなかった。

その先輩は、私の薄い反応に落胆する余裕もないまま、『そう、わかった、ありがとう』と言って、廊下を走り去っていった。


あの先輩、泣いてたな……。


遠ざかっていく足音を聞きながら、私はぼんやりそんなことを思った。

そんなわけで、私が一番最初に覚えたクラスメイトの名前は、星岡翔太君、だった。

この時の私は、まさかついさっき私に充電器を貸してから部室へ向かった生徒が、星岡君だったとは思いもしなかった。