一年間部活を休んでいた、来栖先輩が戻ってくると、美術部顧問の先生から聞いた。
それを聞いたとき、私は正直、心の中で、嫌だなって思った。
だって、好きな人の好きな人と、どんな風に話したらいいのか想像できない。
想像できないし、きっと、その時の自分の顔は、きっと見るに堪えないくらい醜いだろう。
「昨日はごめんね、言いすぎた」
朝、学校に来て一番、珍しく早く学校に来ていた一之瀬君が私に謝った。
席替えで一之瀬君は私の前に座っているのだけれど、今日はどかっと私の席に座っていた。
「え、大丈夫だよ……それよりなんで私の席に座ってるの」
「昨日のことで怒ったもっちーが俺のこと無視しないように座っておいた」
「私をどんな人間だと思ってるのっ、怒ってないからどいたどいた」
一之瀬君のシャツを引っ張って無理矢理立たせ、席を奪い返すと、怒ってないのかと、彼は驚いたように呟いていた。
彼は自分の席に座ったけれど、私の方を振り返ったままだ。
「怒ってないよ、生徒Fですし」
「怒ってるじゃん」
「一之瀬君は、星岡君が大事なんだね」
バッグから教科書を取り出しながら、平静を装ってそう呟いた。
一之瀬君は、私の顔をじっと見つめながら、そうだねと言って、パーマの髪の毛をくしゃっとした。
「……俺と仲良くしてくれたのあいつくらいだしな」
声のトーンが真剣だったので、私は驚き彼を見つめた。いつもの無表情な一之瀬君じゃない。
「俺、サッカー上手すぎて、中学ん時地元のクラブのやつに嫉妬されていじめられてたの。でもクラブ内でも人気者だったあいつが、上手いからって僻んでんじゃねぇよって、そう言っただけで空気が変わった」
そんなことが……あったんだ。
こういう時、なにも言葉が出てこない自分の語彙の少なさに呆れる。
星岡君と出会えたことは、一之瀬君にとって大きな転機だったんだ。
「だから、あいつにはなるべく恩を返したいってわけ」
分かる? と言われて、私はこくんと首を縦に振った。
分かるよ。昨日、私にあんなことを言った一之瀬君だけど、あの時ずっと右手の拳を握りしめて、言いづらいことを言わなきゃならない苦しさに耐えてたから。
「でも、もっちーはいい子だから、翔太の秘密教えてあげようかな」