「……俺さ、ばあちゃんと約束したことがあるんだ」
そう言うと、萌音は鼻をすすりながら、俺の顔を見つめた。
「約束……?」
「萌音を一生守ること」
萌音の涙を親指で拭って、そう伝えると、彼女はそんな約束してたんか、と言って、目尻に涙を浮かべながら笑った。

俺はきっと、ずっと忘れないと思う。
ボロボロだった俺を、萌音のおばあちゃんは何も理由を聞かずに受け入れてくれた。

『あお君から来てくれるの待ってたけん』、と言って。

そんなおばあちゃんが、この世で一番大切にしていた萌音を、俺は預かったのだ。
そう思うと、より一層身が引き締まる。

守ってくれって、頼まれたんだ。
頼まれなくても、俺は萌音のそばにいるつもりだったけれど。

俺は、萌音の悲しみも、喜びも、痛みも、どんな過去も未来も分かち合うつもりでいるよ。

きっと、毎日が幸せなわけではないだろう。
昔のことを思いだして、苦しむ日もくるかもしれない。
時には距離を置くことが必要なときもあるかもしれない。反発しあうときもあるだろう。

でもそんなときは、何度でも思い出す。
萌音は、おばあちゃんが世界で一番愛を注いで育てた、宝物なんだってこと。
おばあちゃんと萌音が積み重ねてきた年月は、何にも代えられない、尊いものなんだってこと。


……目を閉じると、さっきの光景が、瞼の裏に浮かんでくる。

寂しくても、萌音の幸せを願って、彼女を送り出したおばあちゃん。
萌音とおばあちゃんのように、強い絆を築いていけたらいいと思う。そんな風に、本当に思う。

俺は萌音とおばあちゃんと三人で一緒に暮らせて、すごく幸せだった。

誰かと一緒に食べるご飯がこんなにおいしいんだってことも、
誰かに起こしてもらう朝がこんなに幸せなんだってことも、
誰かに心配されて怒られたりすることが、こんなに嬉しいことなんだってことも、

全部全部、萌音とおばあちゃんが教えてくた。

星の数ほど人がいる中で、この広い世界で、
萌音と、萌音のおばあちゃんと出会えたことは、一体どれほどの奇跡だったんだろうか。感謝してもしきれない。


俺は、萌音の涙をもう一度拭って、目を合わせて伝えた。
ずっとタイミングが掴めなくて、でもずっと言いたかった言葉を。

「萌音、結婚しよう」

決めていたことなのに、いざ言うとなると、ものすごく勇気がいるもんだな。