そして気が付くと、俺と萌音は畳の上に寝そべっていた。

俺が先に起きたので、倒れ込んでいた萌音を体をゆすった。
けれど彼女はなかなか起きない。
もう一度揺さぶろうとしたが、俺は萌音の頬に涙の跡があることに気付き、揺することを辞めた。
その代わり、背中を優しくさすった。

「ばあちゃん、やっぱり寂しかったんや……」
顔を両手で覆って、萌音は必死に泣き顔を見せまいとしていた。
「もっとたくさん帰ってあげればよかったっ……」
嗚咽ともに吐き出された萌音の懺悔があまりに切なくて、俺までもらい泣きしそうになった。
でも、ようやく萌音が本気で泣いてくれた。よかった。
ずっと、思い出の隅を少しでつついたら泣きそうな顔のままだったも萌音。
そんな彼女の姿を見て、俺はいつも泣く場所を作ってあげたいと思っていた。
もしかして萌音が泣けないのは、俺のせいなのかもしれないとも思った。

「私ばあちゃんに、なんにも恩返しできなかった。社会人になって、ようやくできると思ったけん、でももう遅かった……っ」
「そんなことないよ。おばあちゃん、萌音と一緒に暮らせて十分幸せだったと思う」
「うっ……ひっく……」
「萌音、水飲みな。脱水症状になるよ」

俺は、萌音の腕を引いて、ぐっと体を引き上げた。
萌音は顔を隠しながら起き上がったけれど、その勢いのまま俺に抱き着いてきた。

「ばあちゃん死んでから、なんかスイッチ入んなくて、葵の言葉にもちゃんと反応してないときあったよね、ごめん……」
「いいよそんなの、気にしてない」
「私、ばあちゃんはずっと元気なままだと思ってたんよ。何だかんだ退院して、またけろっと元気になって、心配損したって怒ったりしてさ……っ」

萌音の涙が服に染み込んでいくのを感じる。
俺の背中に回った手は、どんどん力を増して、服に皺ができた。

「人っていつか死ぬんやね、当たり前だけど、そうなんやね……私はまだ準備が足りなかった」
「準備万端な人なんていないよ。萌音は泣いていい。泣いていいんだよ」

そう言うと、萌音は更に嗚咽をあげて泣き始めた。
俺は、萌音の背中をぽんぽんと叩きながら、萌音の泣き声を聴くことができてよかったと思えた。
萌音がどれだけ悲しんでいるのか、音で感じることができるから。
それから、俺は普通に世間話をするかのように、おばあちゃんとの約束を語った。