そしてここまでが恐らく、萌音の知っている話だ。
ひとりになったばあちゃんは、その電車が豆粒みたなサイズになるまで、見送っていた。
そして、ひとりになって、少し気が抜けたのかばあちゃんはベンチに座った。
ふぅ、と一息ついてから空を見上げて、よし、と気合を入れて立ち上がった。
ばあちゃんは、泣かなかった。
ばあちゃんはそのまま車を運転し、いきつけのスーパーに行って食材を買った。
春菊に、ゴマに、みそと、豚肉……。
一通り買い終えたばあちゃんは、また車を運転して帰宅した。
「ただいまあ」
いつものくせなのか、誰もいない部屋に自分の声が響いて、ばあちゃんは苦笑していた。
それから台所に食材を運び、お湯を沸騰させて春菊をゆでる。ざるにあげたらよく水けを絞り、先に作っておいたごまみそと和える。
残ったゴマ味噌で、豚肉をさっと炒めお皿に盛る。冷やしておいた豆腐をざるにあげたら、あっという間に昼食が完成した。
おばあちゃんが料理をしている姿を見て、不覚にもおばあちゃんの料理がとても恋しくなった。
しかし、そんな思いはすぐに切なさで消え去った。
「よいしょ、と。準備終わりかね……」
お盆にのっけた食事をテーブルに運び、セッティングを終えたおばあちゃんは、その場で少しだけ固まった。
萌音の文の食事が、きっちり用意されてあったから。
「ああ、ついくせで作っちゃったねぇ……ひとりぐらしは独り言が増えていけない」
そう言って、ばあちゃんは萌音の文の食事をお盆に乗せて片づけようとした。
しかし、カタカタとおばあちゃんの手が震えていることに気付いた。
……ああ、そうか。そうだよな。
おばあちゃんは泣かなかったんじゃない。
萌音の前では泣けなかったのだ。
「もうちゃん、ばあちゃん本当はすごく寂しいけ……」
息子とお嫁さんを一気に失って、悲しみと戦いながら、萌音をひとりで育て上げたおばあちゃん。
どんなときも萌音と一緒にいたおばあちゃん。
萌音が神奈川に行って、寂しくないわけがない。
鼻をすする音が、寂しく部屋に響いた。
本当に悲しい時は、人前では泣かない。
どこかの誰かにそっくりだ。
いつも優しくて器のでかいおばあちゃんの弱いところを見れて、俺はなぜか少し安心していたんだ。
ばあちゃんの泣き声が徐々に遠くなり、映像もだんだん薄れていった。
ひとりになったばあちゃんは、その電車が豆粒みたなサイズになるまで、見送っていた。
そして、ひとりになって、少し気が抜けたのかばあちゃんはベンチに座った。
ふぅ、と一息ついてから空を見上げて、よし、と気合を入れて立ち上がった。
ばあちゃんは、泣かなかった。
ばあちゃんはそのまま車を運転し、いきつけのスーパーに行って食材を買った。
春菊に、ゴマに、みそと、豚肉……。
一通り買い終えたばあちゃんは、また車を運転して帰宅した。
「ただいまあ」
いつものくせなのか、誰もいない部屋に自分の声が響いて、ばあちゃんは苦笑していた。
それから台所に食材を運び、お湯を沸騰させて春菊をゆでる。ざるにあげたらよく水けを絞り、先に作っておいたごまみそと和える。
残ったゴマ味噌で、豚肉をさっと炒めお皿に盛る。冷やしておいた豆腐をざるにあげたら、あっという間に昼食が完成した。
おばあちゃんが料理をしている姿を見て、不覚にもおばあちゃんの料理がとても恋しくなった。
しかし、そんな思いはすぐに切なさで消え去った。
「よいしょ、と。準備終わりかね……」
お盆にのっけた食事をテーブルに運び、セッティングを終えたおばあちゃんは、その場で少しだけ固まった。
萌音の文の食事が、きっちり用意されてあったから。
「ああ、ついくせで作っちゃったねぇ……ひとりぐらしは独り言が増えていけない」
そう言って、ばあちゃんは萌音の文の食事をお盆に乗せて片づけようとした。
しかし、カタカタとおばあちゃんの手が震えていることに気付いた。
……ああ、そうか。そうだよな。
おばあちゃんは泣かなかったんじゃない。
萌音の前では泣けなかったのだ。
「もうちゃん、ばあちゃん本当はすごく寂しいけ……」
息子とお嫁さんを一気に失って、悲しみと戦いながら、萌音をひとりで育て上げたおばあちゃん。
どんなときも萌音と一緒にいたおばあちゃん。
萌音が神奈川に行って、寂しくないわけがない。
鼻をすする音が、寂しく部屋に響いた。
本当に悲しい時は、人前では泣かない。
どこかの誰かにそっくりだ。
いつも優しくて器のでかいおばあちゃんの弱いところを見れて、俺はなぜか少し安心していたんだ。
ばあちゃんの泣き声が徐々に遠くなり、映像もだんだん薄れていった。