萌音は、泣き虫なくせに、こういう時に変にしっかりしていて、強いのだ。
もしかしたら、俺よりずっと精神年齢が上なのかもしれない。そんな風に思うほど。

今日も、萌音はいつも通りお弁当を詰めて、いつも通り会社に行って、いつも通り帰宅して、いつも通りお風呂を出た後俺の横で本を読んでいる。
萌音のシャンプーのいい香りが、鼻腔を擽る。
なんとなく、どんな本を読んでいるのか気になって、覗いてみた。
すると以外にもそれは、こてこてのファンタジー小説だった。

「そういうのも読むんだ」
「うん、ばあちゃんの影響かも」
「へぇ、小さいころ読み聞かせとかしてもらった?」
「うん、してもらった。ばあちゃん訛り酷くて何言ってるかわからんときあったけど」

久々に萌音の口からばあちゃん、という言葉が出てきて、俺はなんだか少し安心した。
まるで、口にしてはいけないようなワードに、勝手になっているような気がしていたのだ。
萌音自身も久々におばあちゃんのことを話題に出して、思うところがあるようだった。

そんな萌音に、俺はどうしてもひとつ提案したいことがあった。

「ねぇ、萌音。映像って共有できないのかな」
「え、なに、どういうこと?」
「過去の映像、俺も見てみたいんだよね」
「えぇ、最近見てないしなあ。そんなことできるんかな」

俺の唐突な提案に、萌音はかなり疑心を抱いているようだった。
好奇心で過去が見たい気持ちがあるのは本当だけれど、俺にはもう一つ違う意味の目的があった。

それは、ばあちゃんのことを思い出してなりふり構わず泣いてもらいたい。
なにか泣くきっかけを作ってあげないと、萌音はずっと同じ量の悲しみを抱いたまま、ぼんやりと過ごしてしまいそうだったから。

「おばあちゃんとの思い出、見てみたい」
俺がそう言うと、萌音は俺のリクエストの意図を理解したのか、私は大丈夫だよ、と笑った。
「俺が見たいんだ、ばあちゃんに会いたいんだ」
俺がごり押しでお願いすると、萌音は根負けして仕方ないなあと言って、ばあちゃんがよく読んでいたという小説を手に持った。

そしてそれを額につけ、もう片方の手で俺の手を握った。
俺も半信半疑でできるわけがないと思っての挑戦だった。

しかし、徐々に景色がゆがみ始めて、俺は気付いたら四年前に戻っていた。
種類は違えど同じ能力者同士、波長が合いやすいのだろうか。