そしてその時の女の子と、今もこうして一緒にいることを、不思議に思う。
おばあちゃんとこの話ができてよかった。

「ばあちゃん、飴買ってきたよ!」

暫くその余韻に浸っていると、その空気を全く無視して萌音が部屋に戻ってきた。
すこしだけしんみりした様子の俺たちを見て、萌音は「なに、なんの話してたの?」と聞いてきたので、萌音には分からないから大丈夫、と答えたら、萌音は怒っていた。

「最近葵はばあちゃんと仲いいなあ」
「あお君に見捨てられない様に、ガサツなとこなおしぃよ、もうちゃん」
「ガサツはばあちゃん譲りやけ、もう治らんよ」
「ばあちゃんのせいにするんかね」

病室でも、萌音とばあちゃんの関係性は変わらずだった。
俺はその光景を見てとても微笑ましく思った。

しかし、そんな掛け合いを見れたのは、その月が最後だった。

ばあちゃんの容体は徐々に悪化し、食がどんどん細くなり、みるみるうちにおばあちゃんは痩せていった。
萌音も、幹おじさんも、皆で代わる代わるにお見舞いに行ったが、おばあちゃんはなんの反応もない時もあったし、ご機嫌な日もあった。
感情の起伏がまだらで、少しぼけが入っていたんだと思う。
萌音が話しかけても無視をしたり、萌音が誰だか忘れたり、萌音にとってはとても辛いであろう症状が続いた。

でも、以外にも萌音は毅然としていた。
こういう日がいつか来るって、分かっていたから、と言っていた。

そして入院してから二か月後、おばあちゃんは天国に旅立った。
萌音は、葬式で泣かなかった。
今ここで泣いたら、また泣き虫やねって、バカにされるからね、と言って。

その姿を見て、なぜか俺が泣きそうになってしまった。





『ばあちゃん、あの時のあお君に本当に救われたけん。だから、あお君が家に来てくれた時、本当にうれしかったんよ。この子が、もうちゃんを守ってくれるかもしれんって……この先も』

おばあちゃんに、萌音を守るように期待されたけれど、俺は萌音をしっかり支えてやれているだろうか。
おばあちゃんが亡くなってから半年たったけれど、俺と萌音の関係は相変わらずで、同棲だけしている状態だった。

四十九日を終えても、お互いどこか心にぽっかり穴が開いたままで、結婚どころではなかった。
ばあちゃんの思い出や存在に触れない様に、萌音の涙腺の蓋に触れない様に過ごす日々。