そして俺は、黙ってこの町を出ていくことを決めた。


「お願いです。ここに居候させてください」
ノートにその文字を書いて、俺は萌音の家にやってきた。
萌音のおばあちゃんには、俺の母に内緒で駄菓子を買ってもらったり、おにぎりを作ってもらったり、幼いころから可愛がってもらっていた。
当てはここしかなかった。ここがだめなら、ひとりで生きていくしかない。
俺は、そのくらいの覚悟でこの町に来ていた。
深く深く下げていた頭をゆっくりあげると、萌音のおばあちゃんは、予想外の言葉を言ってのけた。

「やっと抜け出せたんね、あお君。あお君から来てくれるの待ってたけん。人の子をくださいなんて、言えないしねえ」

さぁ家に入って、と萌音のおばあちゃんはすぐに俺を家に入れてくれた。
かなり訛りが強いせいで、口を読むことは大変だったが、おばあちゃんの表情からウェルカムであることは間違いないと判断した。
俺はまさかこんなにとんとん拍子で話が進むとは思わず、正直かなり戸惑っていた。

「萌音ももうすぐ帰ってくるけん。待っててな」
いいんですか、本当に。再度メモ用紙に書いて見せると、萌音のおばあちゃん深く頷いた。
線香のような匂いと、湿った気の匂いが漂っている萌音の家が、俺は昔から大好きだった。
東京に住んでいた時の家は、新築独特の臭いが常にしていて苦手だった。
この家のような安心感と優しさが、あの家には感じられなかった。
おばあちゃんは温かいお茶を入れてくれて、それはもうあたかも自分の孫のように接してくれた。

あまりにその流れが自然すぎて、家でじゃなくて居候のお願いに来たのだと、ちゃんと理解してくれているのか俺は不安になった。
『本当にここに住んでいいんですか?』
再度メモ用紙に書いて問いかけると、おばあちゃんはまたにっこりと笑った。
『ゆっくり話してもらってもいいですか』。
俺は、おばあちゃんが何かを話し出す前に、お願いした。
おばあちゃんはそれを読んで、気付かなくてごめんね、と謝って、さっきよりずっと読みやすい話し方をしてくれた。
でもそれは、かなり衝撃的なひと言だった。

「あお君、お告げ人の血を引いているもんねぇ。何か困ったことあったらばあちゃんにすぐ言うんよ」
なぜそれを。俺は萌音以外にこの能力のことを話したことはなかったのに。
驚き固まっている俺に、おばあちゃんは更に言葉を続けた。