「寂しくならんようなおまじないがあるけん。もうちゃんは覚えとる?」
寂しくならないおまじない……?
ばあちゃんがそんなようなことを言うのは珍しく、私は顔を上げてばあちゃんの方を向いた。
ばあちゃんは、ほんの少し教えることを渋るような表情をしているように見て取れた。
「本当は、辛いことも思い出してしまうかもしれんから、あんまり教えんように貴久にもすみれさんにも言ってたんだがね」
「え……どういうこと?」
「何かを思い出したいときは、その人自身か、その人の写真や私物に触れて、知りたかった過去を心から願うの」
ばあちゃんの言っている意味が全く理解できず、とうとうぼけたのかと思って私はナースコールを押しそうになった。
しかし、ばあちゃんの目つきは全く正常で、真剣に話していることが伝わったので、私はナースコールを手から放した。
「……葵君のような、お告げ人の逆を、顧み人って言うんよ」
ばあちゃんがあまりにも突然に、葵のことをお告げ人と言ったので、私は驚き固まってしまった。
葵には未来を予知する能力があることを、ばあちゃんは知っていたの……?
なんで、と小さく漏らした私に、ばあちゃんはもうちゃんが生まれた時から知っとったよ、と更に驚きの情報を告げた。
「町の医者が本物のお告げ人でね。もうちゃんが生まれた時に、この子は顧み人になるって。そしてすぐに同い年くらいの男の子のお告げ人と出会うだろうって」
「私が顧み人ってこと……?」
「急に過去の映像が流れ込んできたりせんかった?」
ある。私はすぐに見覚えのある体験をいくつも思い出した。
葵と上野駅で待ち合わせた時も、母さんの写真を見た時も、まるで映画のように鮮明に映像が流れ込んできた。
確かにあれは、記憶の域を超えていたと思う。
思い出せば思い出すほど、益々その話に合点がいく。
「もしこの能力が悪い大人にばれたらと思うと怖くて、ばあちゃん不安で教えたくなかったけん」
ばあちゃんは、能力を持つ私と葵を至って普通に育ててくれた。
特別なことも特別なものも与えず、特別扱いもせずに、私のやりたいように育ててくれた。
私が生まれてから二十年間、ばあちゃんはこんなに重大な秘密を抱えていたの……?
「でももう、もうちゃんも二十歳やもんね。いつまでも子供と思ってたけど、もう、二十歳なんやね」