パソコンの前で、そう願って目を閉じたその時、スマホが着信音を鳴らした。
予期せぬタイミングでなったので、私は驚いて思わず椅子からバランスを崩してしまった。
着信は、父の弟からだった。
「はい、もしもし白戸です」
「萌音ちゃん? 今大丈夫?」
「幹おじさん、お久しぶりです。どうかしましたか?」
幹おじさんとは、つい最近地元の近くの県に転勤してきたおかげで、よくばあちゃん家に行くようになった。
前は東京でバリバリ働いていたので、彼とは年に一度会うか会わないか程度だったが、今はもう子供も生まれた関係でこっちでゆっくり働いているそうだ。
顔はお父さんとあまり似ていないけれど、とても賢くて優しいおじさんだ。

「ばあちゃんが、倒れたんだ」
幹おじさんは、低く落ち着いた声でそう言った。
「え……、いつ!? 命に別状は!? 病気、事故!?」
倒れた、と聞いた途端にパニック状態になってしまった私は、幹おじさんに質問攻めをしてしまった。
唯一の家族であるばあちゃんが倒れた……。まだ何も聞いていないのに、ショックで一気に涙が溢れてきた。
「落ち着いて。ただの熱中症だから」
「ね、熱中症……」
「今回はそう診断されたけど、かなりもう年も年だし、ばあちゃん昔から腰弱いだろ? もし転倒でもしたら……寝たきりの危険性も十分ある。初めての入院ですっかり弱っちゃってるから、様子見にきてあげてよ」
幹おじさんはそう言って、少し困ったように笑った。
いつも元気なばあちゃんが入院だなんて……。ばあちゃんはいつまでも元気で年を取らないような気がしていたけれど、ばあちゃんももう八十歳になる。体が弱ってきて当然の年齢だ。
「病気とかじゃないから、安心して。きっとものすごく心配するだろうから、連絡するか悩んだけど」
「帰ります、明日の土曜日……」
そう答えると、幹おじさんは優しい声で、ありがとう、と言って電話を切った。
びっくりした。本当にびっくりした。
私は、心臓を押さえて、ばあちゃんがいなくなっちゃうかもしれない恐怖に耐えた。
葵みたいに、誰かに突然いなくなられるのは、もう嫌だ。そんなこと、もう絶対耐えられない。立ち直れそうにない。
葵を失って、私は益々弱い人間になってしまったと思う。

私は、すぐに荷物を整理して、バッグの中に衣類を突っ込み、スマホで新幹線の席を予約した。