「一緒に洗濯物してる時かな、なんか幸せだなーってなるんだよね」
頬を赤らめて、恥ずかしそうにぶっちゃけた裕子の発言に、皆は一気に白けた空気を醸し出した。
彼といて一番幸せだなって感じるときってどんな時なの? という彼氏なし側の素朴な疑問に答えただけなのに、裕子は全員に無視された。
こっちから聞いておいてこの対応はさすがにないとは思うけれど、女子部屋の誰もがそのお花畑な空気に耐えうる心の広さを持ち合わせていなかったのだ。
「さー、次の個展の企画考えるけぇ」
「ちょっと、萌音ちゃんが聞いてきたんでしょー酷いよ皆ー」
裕子が怒って弱いパンチを浴びせてきたので、私は笑ってごめんごめんと謝った。
あれから年月は経ち、私は二十歳になった。
藝大に合格することはできなかったけれど、なんとか滑り込みで相模原市にある美術大学に合格することができた。
今は地元を離れ、女子寮での生活を初めて二年が過ぎた。
ばあちゃんのことが気になって、最初はしょっちゅう帰っていたけれど、最近は父の弟夫婦がよく帰ってくるようになったので安心して学業に専念している。
女子寮はとても自由で、住民も強烈に個性的で毒舌な人が多く、私はこの二年間とても充実した日々を過ごしていた。
誰かの部屋に集まって、お菓子を食べながらだらだらと話すことが日課で、毎日修学旅行のような日々を送っている。
「萌音は彼氏作んないのー?」
この部屋のリーダー的存在である智恵子が、唐突に私に恋話の話題を振ってきた。
私は全く恋話要員ではなかったので、驚いてお菓子を喉に詰まらせてしまった。
「そういえば萌音のそういう話って、聞いたことないよねー。チューしたことくらいはあるでしょ?」
キスをしたこと……確かにあるけれど、私はあのキスのされ方に全く納得していない。
事故でもないし強引でもないしむしろ自然な流れ過ぎてされたことに気付くのに時間がかかるほどのキスだった。
その次の日にキスをした相手は疾走するし、こんな話したら面白がられるに決まっているので、私は適当にふわっと流そうとした。
「あるけど、あんなのノーカンやけ……」
「え、どういうことどういうこと? ちょっと皆集合だよー」
「次の日相手疾走したし……」
「何それウケる詳しくっ」
しまった。流すどころか墓穴を掘ってしまった。自分の素直さが仇となった。