そんなこと、ばあちゃんからも本人からも聞いたことがない。本当に葵なのか? 問いただしたが、あんな美少年葵以外この町にいない、見間違えるわけがない、と日吉はきっぱり答えた。
「俺さ、最近センシティブやから、夜空の星見上げたりするやん?」
「え、うん全然知らんけど」
「そしたら、葵がふらふらーって歩いてきて、手にはビニール袋かな? そんな感じの持ってたけん。まさか破壊事件の犯人葵だったりし」
私と遠藤ちゃんが思いきり睨みつけたので、日吉は冗談やけ、と言って取り繕うように笑った。
葵がそんなことをするメリットなんてひとつもないし、理由もない。葵が犯人なわけない。
でも、そんな深夜に、私達に黙って一体何をしに深夜に抜け出したのか。
東京から帰ってきてから、葵は今まで以上にぼうっとしていることが多くなった。それと何か関係しているのだろうか。
半分しか丸のついていない解答用紙を見つめて、今はそんなことに気をまわしている場合ではないとわかっているものの、胸騒ぎが止まらなかった。
家に帰ると、珍しく葵がオルガンの前に座っていた。
葵の実家にあったような、立派なグランドピアノなんかじゃなく、ばあちゃんが幼いころ使っていた、古いオルガンだ。
畳の上にどしんと置かれたそれには、常に布がかかっていて存在を消されていたが、葵はその布を取って鍵盤を見つめていた。
不思議な光景に、暫く黙って見つめていると、葵がゆっくりと細い指を鍵盤の上に置いた。
一音目を聴いてすぐにそれがなんの曲か分かった。……私が大好きなカノンだった。
古いオルガンを使っているとは思えないくらい美しい音色に、弘法筆を選ばずとはこのことか、とひとりで勝手に納得した。
葵が自らピアノを弾くなんて、一体いつぶりだろう。
彼は、心の中のカノンの音を頼りに弾いているようだったが、タイミングやリズムは体が覚えているのか、全て完璧だった。
やはり葵は、ピアノがよく似合う。
このままずっとこのメロディーを聴いていたいと思い、ゆっくりと目を閉じると、突然彼は演奏を止めた。
それから、焦ったように蓋を閉じて、二階に上がり自分の部屋に引きこもった。
もしかして葵は、私とばあちゃんがいない間にこうしてひっそりとピアノを弾いていたのではないか。
なんとなくだが、焦った様子の彼を見て、そう思った。
「俺さ、最近センシティブやから、夜空の星見上げたりするやん?」
「え、うん全然知らんけど」
「そしたら、葵がふらふらーって歩いてきて、手にはビニール袋かな? そんな感じの持ってたけん。まさか破壊事件の犯人葵だったりし」
私と遠藤ちゃんが思いきり睨みつけたので、日吉は冗談やけ、と言って取り繕うように笑った。
葵がそんなことをするメリットなんてひとつもないし、理由もない。葵が犯人なわけない。
でも、そんな深夜に、私達に黙って一体何をしに深夜に抜け出したのか。
東京から帰ってきてから、葵は今まで以上にぼうっとしていることが多くなった。それと何か関係しているのだろうか。
半分しか丸のついていない解答用紙を見つめて、今はそんなことに気をまわしている場合ではないとわかっているものの、胸騒ぎが止まらなかった。
家に帰ると、珍しく葵がオルガンの前に座っていた。
葵の実家にあったような、立派なグランドピアノなんかじゃなく、ばあちゃんが幼いころ使っていた、古いオルガンだ。
畳の上にどしんと置かれたそれには、常に布がかかっていて存在を消されていたが、葵はその布を取って鍵盤を見つめていた。
不思議な光景に、暫く黙って見つめていると、葵がゆっくりと細い指を鍵盤の上に置いた。
一音目を聴いてすぐにそれがなんの曲か分かった。……私が大好きなカノンだった。
古いオルガンを使っているとは思えないくらい美しい音色に、弘法筆を選ばずとはこのことか、とひとりで勝手に納得した。
葵が自らピアノを弾くなんて、一体いつぶりだろう。
彼は、心の中のカノンの音を頼りに弾いているようだったが、タイミングやリズムは体が覚えているのか、全て完璧だった。
やはり葵は、ピアノがよく似合う。
このままずっとこのメロディーを聴いていたいと思い、ゆっくりと目を閉じると、突然彼は演奏を止めた。
それから、焦ったように蓋を閉じて、二階に上がり自分の部屋に引きこもった。
もしかして葵は、私とばあちゃんがいない間にこうしてひっそりとピアノを弾いていたのではないか。
なんとなくだが、焦った様子の彼を見て、そう思った。