家に着くと、私は電気もつけずに暗い自室に閉じこもった。
傷つかなくてもいいことで傷ついてしまった。いらぬことを言って友人との関係がぎくしゃくしてしまった。葵の予知のせいで。葵のせいで。そうじゃない。わかってる。
ベッドに顔を押し付けて、私はうう、と唸り声をあげて枕を叩いた。籠った吐息が熱となって顔全体の温度を上げ、じわりと涙が滲み出てくる。
自分以外の全員の作品が上手に見えるし、何をどう描いても納得のいく作品ができない。講評会で普通と言われるたびに自信を失くす。
それでも絵を描き続けなければならない。楽しんで絵を描いていたのは、一体いつまでだっけ?
コンコン、と遠くでドアをノックする音が聞こえた。葵だ。ばあちゃんは部屋をノックする前に必ず私の名前を呼ぶから。きっと夕飯に来ない私を呼んでくるように頼まれたのだろう。

「酷いこと言っちゃいそうやから、今は葵の顔見たくない……」
聞こえるわけないのに、私は枕に顔を埋めながらそう答えた。
暫くして、細い明りが差し込んできて、葵がベッドに座ったのが分かった。
ギシ、と重さが伝わって、私はあっち行っての意味を込めて、葵の体を手で押した。しかしその手は空振りして、逆にしっかりと掴まれてしまった。

「葵の予知のせいで、嫌な思いした……」
違う、葵のせいじゃない。違う。だけど、何に気持ちをぶつけたらいいのか分からない。
涙でべったりと顔に張り付いている髪の毛を、葵は細い指でどかして、手のひらを私に見せた。文字を書いて伝えて、という意味だ。正直に、と葵が手話で言葉を添えた。
私は、葵の薄っぺらい、でも私よりずっと大きい手の平に、『葵の能力は人をだめにする』と書いてしまった。
葵は、その手の平をじっと見つめて、それからゆっくり胸に手を当てた。まるで、私が書いた言葉を胸に染み込ませるかのように。
彼は私の手を取り、ごめん、とゆっくり文字を書いた。

指でなぞられた感覚が重く残って、一体どうして私は葵に謝らせているのだろうという気持ちになった。
「違う、八つ当たりした……。私が私の絵を嫌いなせいなんよ……」
自分がとても酷い言葉を伝えてしまったことに気付いて、私もゆっくりと葵の手の平にごめんと書いた。
彼は、なんとも言えないような、ぎこちない笑顔を浮かべて、首を静かに横に振った。