「そうだなぁ。どうしようかな」

「あ、あの」

「あ……そうだ。そっちの嘘を黙ってる代わりに、君が俺のためにピアノを弾く、ってのはどう?」

「あ、あなたのために、ピアノを……?」

「そう。来週から、ここで夏休みまでの約二ヶ月半、放課後は俺のためにピアノを弾く。それで、今君が話したことと、君がここでピアノを弾いてること全部、黙っててあげる」

「全部……」

「その上、約束の期間が過ぎれば、俺はもうここには二度と来ない。そしたら君は今までどおり、ここで自由にピアノを弾ける。断る理由は、ない気がするけどね」


それは、思いもよらない提案だった。

二ヶ月半、彼のためにピアノを弾けば、私は今までどおり、ここで好きなだけピアノが弾ける。

彼も期間が過ぎれば、もうここには来ない。

だとしたら、彼の言うとおり、その提案を拒否する理由は私にはないんじゃないか。

サキに……私のついた嘘がバレないために。

私が大切にしているこの場所を守るためには、彼の提案を受け入れる道しか、私には残されていなかった。