「あ、あの……」
「……っていうか、今の話。タダで黙ってろって言われても、無理だな」
「え?」
「君が本当はピアノを弾けること、うっかり普通科のだれかに話しちゃうかも」
けれど、心配したのも、つかの間。
突然、なにを言いだすかと思えば、あっけらかんとそんなことを言った彼は私からアッサリと手を離し、ふたたび自分が座っていた席へと歩を進めて腰をおろした。
悠々と組まれた、嫌味なほど長い脚。
夕陽を浴びて、ただ、こちらを見る姿さえ絵になっていて、やっぱり目を奪われる。
私はその場に固まったまま、彼の姿を視線で追いかけるのが精いっぱいだった。
彼が通ったあとに揺れたカーテン。
それがなにかのメロディーを奏でているようで、心臓がバクバクと高鳴って落ち着かない。