「……私、小さい頃からずっとピアノを習ってて。でも、いろいろあって、数年前から人前でピアノを弾くことができなくなったんです」
ぽつり、ぽつりと話しだした私の真意をさぐるように、彼はまっすぐに私を見つめた。
「それで今日、友達に課外活動のボランティア演奏会に誘われたんですけど、ピアノはもうずっと弾いてないから演奏会なんて、とても無理だって嘘をついちゃって。本当は、この音楽室に、毎日のようにピアノを弾きに来てるのに……」
サキの笑顔を思い浮かべると、針で刺されたように胸が痛む。
「大好きな友達に嘘をついてまで、本当の自分を隠して……。そんなヤツが弾くピアノが、いい音を奏でられるはずがないです」
だんだんと弱くなった語尾に比例するように、私の声は、ふるえていった。
言葉にすると、わかっていることを再度突きつけられたような気がして情けなさに胸が覆われる。
ああ、おかしいな。
苦しくて、逃げ出したはずなのに。
やっとの思いで逃げこんだこの場所でも窒息してしまったら、私はもう、どこに行けばいいのか、わからない。