「君のピアノ、好きだよ」


早鐘を打つように高鳴る鼓動。

名前も知らない彼。

彼も……私の名前を知らないに決まっている。

だけど、彼は私がいちばん好きな曲であるトロイメライを好きだと言った。

そして……私のピアノを、好きだと言ってくれた。


「……っ」


たった、それだけのことなのに。

それだけのことが泣きたくなるくらいにうれしくて、やっぱり胸が締めつけられたように苦しくなって……吐き出した息が、ふるえてしまう。