「Träumerei……」
「トロイメライ?」
「……はい。ロベルト・シューマンの、『子供の情景』の中の第七曲、トロイメライです」
つぶやくように言葉にすると、今度は胸が悲鳴をあげるようにズキズキと痛んだ。
トロイメライ。
この曲は私がいちばん好きな曲で……いちばん、苦手な曲だから。
よりにもよって、この曲を弾いているところを見られるなんて思わなかった。
私が弾いたこの曲を、自分以外の人に聴かれてしまったなんて……やっぱり、どうしても信じたくない。
「……へぇ、トロイメライか」
思わず、足もとへと落とした視線。
並んでいる、ふたつの黒いローファーを、ぼんやりと見つめた。
規則正しく並ぶ木目調の床に沿っているそれは、まるでピアノの鍵盤みたいだ。
汚れてしまった私の音。
自分自身で踏みにじった気持ちは、今も私の足もとでうずくまっている。