「……なぁ、今の」

「ご、ごめんなさい! 勝手に、こんなところでピアノを弾いて……! 今すぐ出ていきます! 本当に、ごめんなさい!!」

「あ……、おいっ!」


あわてて立ち上がり、ガタガタと椅子を鳴らした私はそのまま逃げるように音楽室を去ろうとした。

けれど瞬時に腕をつかまれて、行動を制される。

振り向けば、視線の先にいた彼はなぜか私の腕をつかんだ自分の手を見て、とても驚いた表情をしていた。


「あ、あの……?」

「……っ、ごめん」


言葉と同時に、パッと腕が離される。

つい固まったまま彼を見上げていると、彼はほんのりと頬を赤く染めたあと、一瞬だけ視線をさまよわせてから、ふたたび綺麗な瞳に私を映した。