「いつの間に……って、最初から聴いてたけど」

「さ、最初から……!?」

「そっちはピアノを弾くのに集中してて、俺が現れても全然気づかなかったみたいだけどね」

「嘘……」


おかしそうに、そっと目を細める彼。

彼は、私と同じ高校の制服を着ていた。

だけど、ネクタイの色は私と同じ学年を示すものなのに、私は彼を見たことがない。

もしかしたら……特進科の生徒なのかも。

特進科は別棟な上に、顔を合わせる機会はほぼないからその可能性は高いだろう。


「ところで、今弾いてたの、なんて曲?」


けれど、困惑する私を置き去りに、彼はごくマイペースに言葉を続けた。

優しく目を細めながら、そんなことをたずねる彼を前に今度こそ言葉を失ってしまう。