「今日も……だれもいない、よね」


まるで、空き家へ泥棒にでも入るように息を殺して音のない廊下を歩く。

第三棟の一階、グラウンドからいちばん離れた角に、私の目的の教室はあった。

――第三音楽室。

ここは、私の、たったひとつの居場所だ。

建てつけの悪い引き戸を開けると、今日も独特のホコリっぽさが鼻先にふれた。

お世話になっている場所なのだから、いいかげん、掃除くらいはするべきかな……。

心の中で反省しながらも、私は一歩一歩、音楽室の奥へと歩を進めた。

ぺたり、ぺたり、と床を踏む上履き。

足もとにできた影の水たまりが、ゆっくりと私を追いかける。

私は、一台のグランドピアノの前で足を止めると、そっと息を吐くように鍵盤の蓋へと手を伸ばした。