「えー。でもさぁ、ちょっとくらい」

「ほら、サキならわかると思うけど、ピアノってしばらく弾いてないと指が動かなくなるでしょ」

「まぁ……それは、そうだけど」

「だからもう、私なんて全然ダメ。ボランティア演奏会なんて出たら、いい笑い者になるだけだよ」

「そんなことないと思うけど……だって練習すれば、また」

「……とにかく。サキは私のことなんて気にしないで、今年もボランティア演奏会、がんばってね。成功するように、応援してるから!」


開け放たれた窓からは海風が迷いこみ、臆病な私の髪を静かに揺らした。

流れた髪は、私の痛みをなぐさめるように頬を撫でる。

……ごめんね、サキ。

心の中で声にならない言葉を紡ぎ、頬にふれた髪をそっと指先で掬って耳にかけると、私はもう一度、サキに向かって微笑んだ。