九月になり、新学期がはじまった。繭玉のなかで暮らすようなひっそり、のんびりとした穏やかな生活が容赦なく断ち切られる。これからまた、あの賑やかな喧噪の中に戻れるのかなと不安になってしまう。

でも、バス停で久々にえれなの笑顔に会ったとたん、簡単に現実に引き戻された。しばらくぶりにあったえれなはやっぱり生き生きとしていて可愛くて、ふたりでかわすおしゃべりはやっぱり楽しい。えれなが夏休みのチア部の練習の過酷さを身振り手振り話してくれるのを、笑い転げて聞いているうちに学校に着いてしまう。

やっぱりえれなはわたしにとって大切な存在なんだなと実感する。ひとりの世界でふわふわと生きているわたしを、現実社会につなぎとめておいてくれるえれな。えれながいなかったら、学校という現実に戻るのにもっともっと労力が必要だったかもしれない。

わたしは夏休み中、ひとりで過ごすことが多かったから、クラスの全員がそろった人口密度の高さに圧倒されて、それだけで息苦しさを感じるほどだった。

そんな中でも、えれなはやっぱりクラスの中を自由に動き回り、久しぶりにあったみんなと声をかけあっている。

「ねえねえ、理緒! ちょっと来て!」

呼ばれて、立ち上がり、話の輪に入る。以前はそれが少しだけ苦痛だった。知らないおたくにお邪魔するような居心地の悪さを感じていた。でも、わたしの中で何かが変わっていた。自分から積極的に関わることはできなくても、ただその場をやり過ごすことだけを考えるのではなく、その場を一緒に楽しもうという気持ちが生まれていた。

何がわたしを変えたのか。

インスタグラムを第三者に評価してもらえたことが、自信になった気もする。

でも、多分一番大きいのは、颯太くんといた公園で思い切ってブランコから飛び降りた夜のこと。結局転んでいっぱい擦り傷をつくったけれど、あのときの記憶が、わたしに勇気を与えてくれたのだと思う。