大好きなお兄ちゃんにいきなり絶縁されたかと思えば、出来のよかった娘がいつの間にか救いようのないバカに変貌していて、お母さんはほんとにきついと思う。いらないストレスと負担をかけてしまって本当に申し訳なく思っている。

板挟みにあっているお父さんにも毎日、ごめんねって思ってるよ。


「お母さんは、『出来のよかった奈歩』が好きなんだから、いまのバカなわたしがなにを言ったって無駄だよ」


それでも、わたしはあのとき悲しかったのだ。
ずっとわたしをまるっと認め、受け入れてくれていると思っていたお母さんに、あんなに一方的に責められたことが、すごく。

ろくに勉強もせずにバカなのはわたしが悪いけど、それは痛いくらいにわかってるんだけど、あの三者懇談の日にわたしは失望されんだって思った。きっとお母さんにとっては『出来のいい奈歩』じゃないとダメだったのだ。

お母さんに失望されたわたしに、わたし自身も、失望した。


「どうしてそういうふうな言い方しかできないんだ?」


穏やかだったお父さんの口調が少し強まった。


「どうして歩み寄ろうって思えないんだ?」

「わたしが歩み寄らないといけないの?」

「お母さんがなにか間違ったこと言ったのか?」


言ってないよ。間違ってないよ。わたしが悪かったよ。

わたしだけが、いつも、悪いよ。


「……じゃあ、奈歩が、悪いよ。どうせ全部奈歩が悪いよっ」


出来の悪いわたしが悪い。ちゃんとやらないわたしが悪い。お母さんに失望されたわたしが悪い。ナミになにも言わなかったわたしが悪い。安全地帯にいるわたしが悪い。全部、全部、わたしのせいだ。伯父さんが悪魔になったのも、おじいちゃんが死んだのも、わたしがなにか気付けていたら変わっていたのかもしれない――