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嫌なこと、面倒なことを見ないふりして、ぎりぎりまで逃げ続けるのは、本当にわたしの悪い癖だ。


「奈歩は、知ってたの?」


いつもきちんと手入れしてある、つるつるのボブヘアが揺れた。いつものふんわりって感じじゃなくて、その動きはなんだかとても冷たくて、わたしは言葉に詰まってしまった。


知らなかった――わけじゃない。

ナミと畑山くんがキスしてるとこ、見ちゃったし。見たくなかったけど。見ちゃったし。

でもいまさら「知ってました」なんてのはちょっと言えない。


ミキは顔を真っ赤にし、もともとつり目がちなのをもっとつりあげて、泣いていた。
ナミは顔を真っ青にし、まるで悲劇のヒロインかのように、泣いていた。

どうやらナミの横恋慕がミキにバレてしまったようだった。

クラスメートはみんな帰ってしまった静かな教室で、場違いなやわいオレンジを浴びながら、わたしたちはこの重いなにかに押しつぶされそうになっていた。


「なんでナミが泣くわけ?」

「ほんとに、ごめんなさい……」

「ごめんで済むと思ってんのっ」


普段から強すぎるほど気の強いミキは、きのうまでいっしょに笑っていたのがまるで嘘みたいに、ナミをこれでもかってくらい罵倒した。もうほんとにボロクソ。とてもじゃないけど聞いていられない。

ナミは、ごめん、ごめんとくり返して、ただ涙を流すだけだ。