◇◇
嫌なこと、面倒なことを見ないふりして、ぎりぎりまで逃げ続けるのは、本当にわたしの悪い癖だ。
「奈歩は、知ってたの?」
いつもきちんと手入れしてある、つるつるのボブヘアが揺れた。いつものふんわりって感じじゃなくて、その動きはなんだかとても冷たくて、わたしは言葉に詰まってしまった。
知らなかった――わけじゃない。
ナミと畑山くんがキスしてるとこ、見ちゃったし。見たくなかったけど。見ちゃったし。
でもいまさら「知ってました」なんてのはちょっと言えない。
ミキは顔を真っ赤にし、もともとつり目がちなのをもっとつりあげて、泣いていた。
ナミは顔を真っ青にし、まるで悲劇のヒロインかのように、泣いていた。
どうやらナミの横恋慕がミキにバレてしまったようだった。
クラスメートはみんな帰ってしまった静かな教室で、場違いなやわいオレンジを浴びながら、わたしたちはこの重いなにかに押しつぶされそうになっていた。
「なんでナミが泣くわけ?」
「ほんとに、ごめんなさい……」
「ごめんで済むと思ってんのっ」
普段から強すぎるほど気の強いミキは、きのうまでいっしょに笑っていたのがまるで嘘みたいに、ナミをこれでもかってくらい罵倒した。もうほんとにボロクソ。とてもじゃないけど聞いていられない。
ナミは、ごめん、ごめんとくり返して、ただ涙を流すだけだ。
嫌なこと、面倒なことを見ないふりして、ぎりぎりまで逃げ続けるのは、本当にわたしの悪い癖だ。
「奈歩は、知ってたの?」
いつもきちんと手入れしてある、つるつるのボブヘアが揺れた。いつものふんわりって感じじゃなくて、その動きはなんだかとても冷たくて、わたしは言葉に詰まってしまった。
知らなかった――わけじゃない。
ナミと畑山くんがキスしてるとこ、見ちゃったし。見たくなかったけど。見ちゃったし。
でもいまさら「知ってました」なんてのはちょっと言えない。
ミキは顔を真っ赤にし、もともとつり目がちなのをもっとつりあげて、泣いていた。
ナミは顔を真っ青にし、まるで悲劇のヒロインかのように、泣いていた。
どうやらナミの横恋慕がミキにバレてしまったようだった。
クラスメートはみんな帰ってしまった静かな教室で、場違いなやわいオレンジを浴びながら、わたしたちはこの重いなにかに押しつぶされそうになっていた。
「なんでナミが泣くわけ?」
「ほんとに、ごめんなさい……」
「ごめんで済むと思ってんのっ」
普段から強すぎるほど気の強いミキは、きのうまでいっしょに笑っていたのがまるで嘘みたいに、ナミをこれでもかってくらい罵倒した。もうほんとにボロクソ。とてもじゃないけど聞いていられない。
ナミは、ごめん、ごめんとくり返して、ただ涙を流すだけだ。



