しょうちゃんはキョトンとしていた。そのくりくりした瞳を見ていたらへにゃりと力が抜けた。同時にこみ上がる、おかしな恥ずかしさ。やるせなさ。
わたし、なに言ってんだろう?
「数学がぜんぜんダメで。3年生になれないかもだってえ。やっばいよね?」
今度はなるだけ明るく言った。
「え? つーか奈歩って頭よくねえ? 現に星翔(セイショウ)受かってんだし」
それは、中学までの話だよ。テッペンからフモトまで、公立の中学になんて幅広い学力の生徒がいるからね。たしかにわたしはそのなかではできるほうだったのかもしれない。
高校はチガウ。受験という戦争を勝ち抜いてきた者が集まってきているところだ。星翔高校に通うのはみんな、中学ではテッペンに近かったやつらで、そのなかでまたランク付けをして、幅のせまいテッペンとフモトを決めているのだ。
わたしはその競争にあっさり負けた。フモト、最下層、最底辺でもがく、バカな生徒。嫌になる。
「いやあ、もう、ぜんぜんだよ」
「ミツみてえなやつばっかりなんか?」
そういうわけでもないんだけどね。みっちゃんは明らかに特別だよ。
「“進学校”はシビアなんだよ」
「ふうん……大変だな」
他人事みたいに口をとがらせたしょうちゃんを見て、さみしい気持ちになった。事実、他人事だからしょうがないんだけど、それは納得しているんだけど。
ああ、どうしよう、すごく泣きたい。
誰もわたしの気持ちなんかわかってくれない。
誰もわたしのことなんか認めてくれない。
でもそんなの、がんばってない、逃げてばかりのわたしが悪いんだから、しょうがない。
しょうがない、しょうがない……。こればっかりは、ほんとに、しょうがない。
「――なあ、奈歩、覚えてるか?」



