「ミツが中学まで野球やってたって、おまえ知ってた?」


唐突すぎる話題にビックリ。みっちゃんが野球を? ぜんぜん知らない!


「うそ!」

「ほんと。まあおれはクラブチームで、ミツは学校の部活だったし、中学ンときは同じチームでやってたってわけじゃねえんだけど」


なぜかまっくろけな顔がくつくつ笑いだす。


「あいつはヘタクソだったよ。走れねえし、打てねえし、投げれねえし、捕れねえし。完全に野球の神様に見放されてた」


ええ、ウソ?

ああでも、たしかになあ。バリバリかっこよく野球してるみっちゃんなんて想像できないかも。あのピタッとしたユニフォーム着てるところすら想像できないや。


「向き不向きって、あるよなあ」


どこか噛みしめるようにしょうちゃんは言った。


「ミツは野球できないぶん、べらぼうに頭いいしな」

「ああ、それはほんっとにね!」


いつもいつもどれだけバカにされてることか! まあ、ほんとにわたしがバカなだけなんだけど……。

ボロクソに言われた三者懇談と、そのあとのお母さんとの喧嘩を思い出して、胃がちくちくした。ここで胃が痛むあたりがどうしようもないね。


向き、不向き、か。

しょうちゃんの『向き』は野球で、みっちゃんの『向き』は勉強だ。揺るぎない、圧倒的な強みだ。そういうのがあるのってほんとにすごいことだよ。ほんとに……いいよなあ。


「奈歩?」


しょうちゃんの声って、デフォルトでちょっとかすれている。いい声だなって思う。生まれ持ったものかな。それとも毎日グラウンドで大きな声を出している証拠?

引退したらクリアな低音に変わっていったりするのかな。引退かあ。みっちゃんが野球してるのを想像できないってのと同じように、野球してないしょうちゃんは、ぜんぜん思い描けないよ。


「……わたし、進級できないかもしれないんだって」


こんなかっこ悪いこと、しょうちゃんだけには死んでも言うつもりなかったけど、ダメだった。

嫉妬してる。いますごく卑屈になってる。わかるよ。いちばん醜い部分が、理性を押しのけてあふれてきているのが。