このピッチャーはどうだとか、いまのプレーがなんだとか。しょうちゃんの黒いケータイの画面を覗きこみながら、ふたりでわあわあ言いあう。
8月20日、きょうはちょうど甲子園の決勝戦だった。
青森代表と西東京代表との試合は、西東京の圧倒的勝利で、本当にあっけなく幕を閉じた。
「あーあ。今年こそ東北勢に優勝してもらいたかったなあ」
「おれも。でも吉岡はすげえ投手だったよ、順当じゃねえ?」
エラそうな解説をしゃべりつつ、川沿いの道をふたりで歩く。
海のない街なので、河原というのは絶好のバーベキュースポットで、今年の夏もいろんな団体が楽しそうに肉や野菜を焼いていた。なかには水遊びやジェットスキーをしている人までいる。
ああ夏なんだなあと思った。水面がこれでもかってくらいきらきら輝いているよ。
「やっぱり全国レベルはすげえなあ」
「ほんとだねえ」
「……来年は、行けっかな」
ひとりごとのようにつぶやいたきり、しょうちゃんはそれ以上なにも言わなかった。わたしもなにも言わない。言えない。
甲子園ってのは、なんだろうね? 夢そのものだね。野球やってるやつなら誰でも恋焦がれる場所。高校野球を好きなやつにとっても特別な場所。本当に不思議なところだ。なにがこんなにも彼らを、わたしたちを惹きつけてやまないんだろう。
いつの間にかさっきまでのにぎやかさが遠ざかっていた。
ふたりぼっちになってしまった河原で、ずかずか歩いていたはずのたくましい脚が、ふいに歩くのをやめた。



