勉強会は夕方の4時半過ぎに終わった。
月のしずくの重たい木製のドアを開けると、外はもうずいぶん暗くなっていた。空を見上げる。黒のスクリーンに、いつも見える輝きたちは映しだされていなかった。かわりにちろちろと白いものが世界に降り注いでいる。
この冬は本当によく雪が降る。
「あー、おなかすいたなあ。オムライス食べたい!」
伸びをして言った言葉といっしょに、白いもやが口から飛びだした。
「おれは鍋食いたいな」
「あ、それもいいねえ」
ネギが好きって言うと、白菜が好きって答えが返ってくる。
キムチ鍋が好きって言うと、今度は、水炊きが好きって返ってきた。
みっちゃんは顔立ちもあっさりしているけど、好みもあっさりしてるんだな。
わたしたちの会話はいつも、くだらない。しょうもない。
駅までの一本道をならんで歩いた。ゆらゆら、ふわふわ、降り注ぐ雪を避けながら。でも避けられるわけがなくて、ぶつかるたびにふたりで笑った。
寒いから雪は好きじゃないつもりだけど、本当はうれしいのかもしれない。うれしくって、心が躍っているのかもしれない。そしてそれは、みっちゃんといっしょだからかもしれない。
「おい奈歩、まっすぐ歩けよ。転ぶぞ」
あきれたような声が後ろから聞こえた。それと同時に、なにもない場所でつまずいた。
「言わんこっちゃねー」
みっちゃんが笑う。でも嫌な気はしなかった。バカにされているというより、しょうがないなってふうな言い方だったからかな。
みっちゃんにはなにを言われても嫌な感じがしないんだ。魔法にでもかかってるみたいに。