「キャッチャーは好きだよ」


まぬけな声が出た。しょうちゃんはなぜか訝しげにわたしをまじまじ見つめると、やっぱり怒った顔のまま、そうかと低い声でつぶやいた。


「でもサードも好きだし……」

「ああ?」


まだ、不満げな顔。


「でもいちばんはショートなんだよって、言ったことなかった?」

「知らねえよ。なんでも好きじゃねえかよ」


大きな手のひらのなかで汗をかいているグラスがズコッと音を立てる。見た目にもわかるマメだらけの手。どれだけバッドを振れば、どれだけボールを投げればこんなふうになるんだろうって、いつもぎゅっとした気持ちになるよ。


「いいから、しゃべってねえで早く食えよ」


なんだって。自分がしゃべり始めたくせしてね!

でもしょうちゃんはなぜか笑っていた。たったいままで怒った顔をしていたくせに、それが噓みたいなやわらかい表情で、ぜんぜんついていけない。

さっきはなにが気に入らなかったんだろう? いまはなにがお気に召したんだろう? さっぱりわかんない。でもやっぱり、こうして素直に気持ちをオモテに出せること、すごくいいなって思う。

そんで、この男が笑ってくれると、どうしようもなくうれしいって思う。