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松田祥太郎が待ち合わせの時間どおりに来たことって、いままでに何度あっただろう。


「また『ついた』ってメール見てから動きだしたでしょう」


挨拶もなしに、顔を見るなりいきなり責めたてたわたしに、それでもまっくろけの顔は屈託なく笑った。


「しょうがねえじゃん。おれんちソコなんだから」


ゴツゴツした親指がぴこんと立って、すぐそこの白い家を指すようにグッグッと動く。


しょうちゃんはなんでこう、いつも、悪気ってものがすっぽり抜けているんだろうね。ゴメンの一言もないところがほんとに相変わらずだなって思う。きっと彼は自分が世界の中心にいると信じて疑っていないんだ。

わたしも似たようなところがあるけど、この圧倒的な唯我独尊を目の当たりにすると、ぜんぜん敵わない。わたしなんかは宇宙の塵。ホシにすらなれない小さなくず。


まっくろのまんなかでチカチカ輝いている白い前歯を眺めているうちに、だんだんと腑抜けたような気持ちになった。宇宙の塵がなにを言っても無駄だってことを思い出したのだ。

あきらめて改札を抜けると、やっとこっちに来たと言わんばかりに、まっくろけがうれしそうに笑う。同時に胸がぎゅんっとする。この男に会うといつもそう。


「しょうちゃん、おかえり」

「おー、ただいま」


時間どおりには来ないけど、顔を見て言葉を交わせることが、こんなにうれしいよ。