「奈歩、お待たせ」


今度は予想していたとおりの声に呼ばれた。ようやく帰ってきたみっちゃん、お待たせじゃないよ、電子辞書をとりに行くのに20分もかけやがって。


「あれ? 森山さん……」


切れ長の目が、わたしのまるまるとした顔と、花純ちゃんのシュッとした小顔とを、順に見比べた。


「奈歩と知り合い?」

「そうだよ。実はわたしたち幼稚園からの友達でね? まあ奈歩ちゃんはわたしのことなんかすっかり忘れてたけど」


まだ根に持たれてるよ!

中1のときの「誰?」はけっこうショックだったようで、たまにこうしてチクチク言われる。言われるたびになかなかのダメージを食らう。まあ、悪いのはわたしのほうなんだけどさ……。


「ああ、そうなんだ。同じ中学なのは知ってたけど、しゃべるような仲だとは思ってなかったよ」


みっちゃんが、わたしと話すときよりもワントーン低い声で言った。低い、マイルドな声。なんだか優しい声。


「うん、実はそうなんだよー。中学のときはいっしょに合唱の伴奏もしたことあるもんね?」

「うわ、あったねえ!」


なつかしいね。『ハレルヤ』の伴奏がバカみたいに難しくて、特例としてふたりで伴奏をさせてもらったことがあった。中3の文化祭のときだったかな? 花純ちゃんが右手、わたしが左手のパートを弾いたわけだけど、一台のグランドピアノの前に椅子をふたつ置いて、めちゃめちゃ窮屈だったのを覚えている。

ふたりで合唱曲の伴奏をするなんて、後にも先にもたぶん、わたしたちくらいだね。いい思い出だ。


わたしたちが思い出話に花を咲かせているあいだじゅう、みっちゃんはずっとニコニコしていた。紳士的な笑顔だって思った。わたしとふたりのときには絶対に見せないような顔。

かわいい女子にデレデレしちゃって! どうせわたしは口の悪いヤンキー女だよ。頭もワリィし。顔もパンパンだし。自分で言ってて悲しいよ。