「あ」


なにか思いついたように、花純ちゃんが声を上げた。


「光村くんなら、なかで水樹くんとしゃべってたよ」

「ああ、やっぱり……」


相槌をうちながら、花純ちゃんがここの塾生だということを知る。そんな彼女はくつくつと笑った。


「光村くんとほんとに仲いいんだねえ」


水樹くんやウチのお母さんとは違う、からかうつもりなんか微塵もないみたいな言い方がすごく新鮮だと思った。


「わたしが一方的になついてるだけだよ」


花純ちゃんがいたってまじめにしゃべるので、わたしもいつものように冗談っぽく肯定したりできない。なんとなく。


「そうかな? 光村くん、塾でもけっこう奈歩ちゃんの話してるよ」

「ビックリするほど頭ワリィって?」

「もう、奈歩ちゃんはひねくれてるな!」


みっちゃんって、わたしのいないところで、わたしの話をしたりするのか。なんだか意外。くすぐったい感じだ。まあ、ほんとに頭ワリィって悪口言われてるのかもしれないけど。


「奈歩ちゃんはウチの塾入んないの?」

「うーん。これ以上みっちゃんの時間を奪うわけにはいかないしなぁ」


そんなのは建前だけど。“その他大勢”になるのが嫌だって、ガキっぽいことなんか、口が裂けても言えない。

花純ちゃんは笑った。その小さな顔いっぱいにシワができていて、こういう笑い方ができるのっていいなって思った。笑顔が嘘くさくないね。


「あはは! 光村くんが常に自分のために時間を使ってくれるっていう、絶対的な自信があるんだねえ」


たしかにそうだ。自信過剰なことを言ってしまった。

でも、なんでかなあ。わたしといっしょにいるとき、みっちゃんがわたし以外のために時間を使うなんて、ぜんぜん思えないんだよ。我ながら幸せな脳ミソしてるなって思うよ。