みっちゃんは根っからの理系だ。しゃべってても、あ、コイツ理系だってわかる感じのド理系。

数学なんか基礎を習う以外にほとんど勉強しないって、かっこいいことを前に言っていたな。数学は論理と思考の学問だからわざわざ繰り返し練習する必要がないんだって。

なにを言っているのかさっぱり、根っからの文系のわたしには、ちんぷんかんぷんだった。この人とは脳ミソのつくりが根本から違うんだってそのときに知った。


それでもみっちゃんは、文系で、おまけにバカなわたしにも、とてもわかりやすく、根気よく、勉強を教えてくれる。


「奈歩は文系脳だから、理解するよりも暗記しちゃうのが効率いいんだよな」


いつも、こう言う。

ちょっとバカにしたふうな視線を毎回向けられるけれど。それでも、文句も言わずに勉強を見てくれるんだから、わたしも文句はナシだ。


「いいか? このパターンの問題ではこの公式を使うんだよ。大事なポイントな、ここ」


みっちゃんは、大事なところはシャーペンでぐるぐるかこむ。自分の教科書も、どんな科目だってこうしていたから、きっと癖なんだと思う。


「この単元ではこの公式がいちばん大事になってくるから、絶対覚えておくこと」


そう言ったみっちゃんの右手がテーブルの向こう側からこっちに伸びてきた。みっちゃんは背も高いし、脚も長くて、やっぱり腕もうんと長い。


「じゃ、実際に問1から問3まで、自分でやってみて」


あからさまに嫌な顔をしてみた。みっちゃんは知るかって感じに笑った。


「やんないなら、奈歩はできないままだし、でもおれは困らないし、いいけど」

「……はぁい」


みっちゃんは、いじわるだ。厳しい先生。でも、優しい先生。

すごく優しい、ゲキアマだよ。だって、みっちゃん以外のほかに誰が、新年早々バカの勉強に付き合ってくれるっていうわけ?


大きくて骨ばった、男の子っぽい手からシャーペンを受け取った。わたしも女子にしては手は大きいほうだけど、みっちゃんの手とならぶと小さく見える。