自動ドアから出てくる人、入っていく人、みんなにじろじろ見られる。塾生じゃない、よそ者のわたしは、いちいちすこぶる居心地が悪かった。

みっちゃん、早く帰ってこないかなあ。忘れ物とりに行くだけにしては遅いな? なかで誰かと盛り上がっていたりしてね。わたしのことなんかコロッと忘れてね。みっちゃんはそういうのがふつうにありそうだから嫌なんだ。

それにしてもほんとに静かだよ。駅前で、こんなにガヤガヤしているのに、わたしのまわりだけシンと静まり返っているみたい。さっきまでひっきりなしにしゃべりあっていたから。そんなにしゃべることあるのかってくらい、わたしたちはいっしょにいると、お互いずっとしゃべっている。

突然黙っているから、なんだか口がさみしい感じ。どんな鞄にも常備しているリンゴ味のグミを食べながら、白いケータイを開くと、しょうちゃんからメールがきていた。


『8月20日あけとけ』


胸がぎゅんっとする。『あいてる?』じゃなくて、『あけとけ』なのが、松田祥太郎という男だよ。2か月も先の予定を差し押さえられてしまった。それを不快思わせないのも、松田祥太郎という男のなせる技。

しょうがないなあ。と、かわいげのかけらもない返事を送った。

8月20日、しょうちゃん。
帰ったらスケジュール帳に書いておかないと。自分でもあきれるほどスケジュール管理というものがドヘタなのだ。


「あれっ、奈歩ちゃん?」


メールの画面を開きっぱなしでニヤついているところを、いきなり呼ばれた。みっちゃんじゃない声だったから、不意打ちで、びくっとした。


「あ、やっぱり」


顔を上げた先でうれしそうにほほ笑む、これでもかってくらい顔の小さい女子。よく知ってる子だ。どれくらいよく知ってるかっていうと、幼稚園のころからの知り合い。


「えー、花純(カスミ)ちゃん?」

「びっくりしたよー。こんなところでなにしてるの?」


彼女が身にまとっているのはわたしとおそろいの制服だった。そういえば同じ高校に進学していたんだっけね。

花純ちゃんとは確かに幼稚園のころから顔見知りだけど、家が近いというわけでもなく、あまり遊ぶこともなかったので、特別仲が良いってほどでもない。小学校は別々のところだったし。中学で再会したとき、うれしそうに駆け寄ってきてくれた彼女に、わたしは「誰?」と言い放ってしまったのだった。

会えば話すていど。それでも、顔を合わせるたびにこうして気さくに話しかけてきてくれる花純ちゃんのこと、すごくいい子だなって思う。