◇
ミルクティーたった1杯ずつで2時間も居座る高校生にだって、月のしずくのオーナーさんはいつも優しい。帰り際に「テストがんばってね」と笑顔で言ってくれた。ひとつに結わえてあるロマンスグレーの長い髪が素敵だ。
おいしいミルクティーを飲んだときと同じ、心も身体もほっこりしたけど、隣でみっちゃんが『再試だけどな』って顔をしやがった。うるせえ。サイレントでも、うるせえ。
「あ、ちょっと塾寄っていい?」
無事に再試対策も終わり、沈みかけている夕日に向かってならんで歩いている途中で、みっちゃんが思い出したように言った。
「そういやきのう電子辞書忘れてきたんだった。ちょっと戻ることになるけど」
「うん」
みっちゃんが通うK塾には5分歩くとたどり着いた。へえ、こんなところにあるんだ。友達も何人かここに通っているけど、正確な場所は知らなかったな。
へえ、ここかあ……。
「ちょっと待ってて」
「はぁい」
自動ドアの向こうに吸いこまれていくみっちゃんの背中を眺めながら、なんともいえない気持ち。
みっちゃんはこの予備校がすごく好きだ。塾そのものが好きだって意味じゃなくて、ここでいっしょに勉強してる仲間のことが好きみたい。ちなみに水樹くんもそのうちのひとり。
いちいちやきもち妬いてたら死ぬしかないからほんとに嫌なんだけど、学校よりもコッチのほうが好きなんだって言われたときは、なんだかとてつもないさみしさみたいなものを感じたよ。だってわたしはここの生徒じゃないから、みっちゃんの好きなほうに含まれてないんだって、おもいきり拗ねたい気持ちになったよ。
みっちゃんは「奈歩も入ってくればいいのに」と言う。何度も言われる。いっしょに自習室使えるから勉強も楽だろって。
嫌だよ。
『みっちゃんの好きな塾のみんな』の一部を構成する存在になるなんて、そんなのは絶対に嫌だ。
学校とか塾とか関係ない、唯一無二の奈歩になりたい。全部を跳ねっ返す、みっちゃんの“好き”でありたい。
みっちゃんのこととなると、ほんとにわたしは、情けないくらいガキっぽい。
ミルクティーたった1杯ずつで2時間も居座る高校生にだって、月のしずくのオーナーさんはいつも優しい。帰り際に「テストがんばってね」と笑顔で言ってくれた。ひとつに結わえてあるロマンスグレーの長い髪が素敵だ。
おいしいミルクティーを飲んだときと同じ、心も身体もほっこりしたけど、隣でみっちゃんが『再試だけどな』って顔をしやがった。うるせえ。サイレントでも、うるせえ。
「あ、ちょっと塾寄っていい?」
無事に再試対策も終わり、沈みかけている夕日に向かってならんで歩いている途中で、みっちゃんが思い出したように言った。
「そういやきのう電子辞書忘れてきたんだった。ちょっと戻ることになるけど」
「うん」
みっちゃんが通うK塾には5分歩くとたどり着いた。へえ、こんなところにあるんだ。友達も何人かここに通っているけど、正確な場所は知らなかったな。
へえ、ここかあ……。
「ちょっと待ってて」
「はぁい」
自動ドアの向こうに吸いこまれていくみっちゃんの背中を眺めながら、なんともいえない気持ち。
みっちゃんはこの予備校がすごく好きだ。塾そのものが好きだって意味じゃなくて、ここでいっしょに勉強してる仲間のことが好きみたい。ちなみに水樹くんもそのうちのひとり。
いちいちやきもち妬いてたら死ぬしかないからほんとに嫌なんだけど、学校よりもコッチのほうが好きなんだって言われたときは、なんだかとてつもないさみしさみたいなものを感じたよ。だってわたしはここの生徒じゃないから、みっちゃんの好きなほうに含まれてないんだって、おもいきり拗ねたい気持ちになったよ。
みっちゃんは「奈歩も入ってくればいいのに」と言う。何度も言われる。いっしょに自習室使えるから勉強も楽だろって。
嫌だよ。
『みっちゃんの好きな塾のみんな』の一部を構成する存在になるなんて、そんなのは絶対に嫌だ。
学校とか塾とか関係ない、唯一無二の奈歩になりたい。全部を跳ねっ返す、みっちゃんの“好き”でありたい。
みっちゃんのこととなると、ほんとにわたしは、情けないくらいガキっぽい。