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きょうはアイスのほうを飲んでいるみっちゃんが、わたしの手元を見て「熱そう」と眉をしかめた。ミルクティーはホットのほうが好きだから、冬だろうが夏だろうが、いつも温かいのと決めている。

6月はダントツで嫌い。せっかくヘアアイロンでまとめている髪が広がるから。それに、かわいいセーラー服がなんでもないカッターシャツに替わってしまうし、なにより、前学期の中間テストがある。

きのう返ってきたばかりのテスト用紙を、アンティークな木のテーブルの上に広げると、みっちゃんはもうすっかり慣れたってふうにちょっと笑った。


「すごいな。ある種の才能」


8という数字をそのきれいな指がなぞる。十の位に数字はひっつかない。もちろん百の位なんかあるわけない。

8。

数学Ⅱのテストでわたしがとった点数。ハヤミーいわく、クラスでいちばん低いスコアだったらしい。間違いなくうちのクラスの数学の平均点を下げているのはわたしだって、さすがにちょっと申し訳ない気持ちになった。


「これから数学の本試はノー勉で受けることに決めたから」


ソファにふんぞり返ってわたしは言った。


「なんでだよ?」

「数学やり始めたらね、時間がかかりすぎてそれ以外ができなくなって、ほかの教科もメチャクチャな点数になるんだよ。だから数学は再試にかけるって決めたんだ」


みっちゃんは大笑いだった。


「ばっかじゃねえの!」


うるせえ、バカなりに編みだした方法なんだ。当たり前のように全教科で学年トップスコアをたたき出せるみっちゃんに、この気持ちは死んでもわからない。

こっちは進級かかってるんだ。バカみたいって思うかもしれないけど、これでも必死なんだ。ほんとにさ。