妙な居心地の悪さを覚えるくらいには久しぶりに、羽月といっしょに帰った。ほんとにいつぶりだろう? 野球部と帰宅部との下校時間が同じになることなんか普段ほとんどないもんな。
空はすでにどっぷり黒い。みっちゃんは無事に家に帰れているかな。もちろん大丈夫だろうけど、たまにいっしょに帰らないと、なんだかおかしな心配をしてしまう。
「奈歩はかわいいのにかっこいいから好き」
窓の外を流れる景色をぼんやり眺めていたら、ふと羽月が言った。この女の子はいつも突拍子もない。
「ありがとう。話聞いてくれて」
「聞いただけじゃなんの解決にもならないけどね……」
「奈歩はなんにもわかってないなあ」
遠慮なんかちっともない、がらんとした車内に響きわたるほどの大きな声で羽月が笑う。
「大好きな奈歩が自分の話を聞いてくれてるって事実だけで、いいんだよ。楽になるんだよ、気持ちが、こう、すっとね」
奈歩にはわからないかもね。と付け足して、からかうような目。
わかるよ。わたしにとってのそれは、たぶん、みっちゃんだ。羽月の大嫌いな、わたしの大好きな、みっちゃんだ。
こんなことを口にしたら羽月はまた怒り狂うかもしれない。それとも意外とかわいく拗ねたりするのかな? どうだろう。どっちにしろ、みっちゃんがまた嫌われるだけだから、絶対に言わない。
「あたしは奈歩がいちばん好きだよ」
もう何億回と聞いている告白を、きょうもされた。いちばんって、誰と比べてのいちばん? そんな気色悪いことは訊ねたりしない。
羽月からのスキに、もはやときめきもうっとうしさも感じないけど、やっぱりじんわりとうれしい気持ちにはなるよ。自分を好いてくれている人がこの世に確実に存在している。それってけっこう幸せだと思う。
「ふうん。わたしは羽月よりみっちゃんのほうが好きだけど」
「あたし、ミッツだけは死んでも許さないって決めた」
羽月と別れたあと、ケータイにメールが入った。みっちゃんだった。『ちゃんと帰った?』って、考えることがモロに同じで、ひとりで笑ってしまった。