「ワタッチとキョウヘイ、それと秋山さん3人の問題なんだから、羽月が口出せることなんかひとつもないよ」
どれだけ仲が良くたって。どれだけいっしょに過ごしていたって。外野がどれだけ憂いたって、不安に思ったって、悲しんだって、なんにもできない、なんにもならない。
それは、どうにも、しょうがないことだよ。わたしたちは全知全能の神様じゃないから。どうにかしようなんて思うことじたいきっと間違いで、そういうものだって、納得しなければいけない。
これは達観なんかじゃない。ある種のあきらめだ。
目の前にある整った顔は、くやしそうな、悲しそうな表情を浮かべながら、それでもその気持ちを一生懸命に押し殺すようにくちびるを噛んでいる。
ああ、間違ったかな? 間違ったね。羽月が欲しかったのは、たぶんこんな言葉じゃなかった。
「ごめん」
なんとなく謝ってしまった。羽月はウウンと言って、天然パーマの黒髪を揺らしながら、ふるふると首を横に振った。
「奈歩としゃべると安心する」
「ええ?」
こんな冷たいことしか言ってないのに?
「奈歩は冷たくなんかないからね」
まるで心のなかを覗かれたみたいでぞっとする。羽月はサトリなの? それとも、わたしがサトラレ?
「ほんとに冷たい人間は、そんな傷ついたって顔はしないよ。なにもできないことに、傷ついたりしないんだよ」
やっぱり羽月のほうがサトリかもしれない。
傷ついた顔って、どんな顔? わたしは傷ついているのかな? ミキとナミのこと、おじいちゃんのこと、伯父さんのこと――いろいろあきらめてはいるけど、そのことを、悲しいと思ってはいるけど……。
「あたしも奈歩みたいになりたい」
突然、羽月が晴れやかに言った。
「でも、あたしは絶対そうはなれないから、ずっと奈歩の傍にいたい」
冗談を聞かされているような気持ちだよ。だから肩をすくめて軽く笑ったんだけど、目の前の女の子はいたって真剣って感じで、どうにも居心地が悪い。
よくそんなことを本気で言えるね? わたしもたぶん、一生かかったって、羽月みたいにはなれないと思う。